受賞作品『最後の辺境 チベットのアルプス』
ヒマラヤ山脈の東には、アジアの大河であるプラマプトラ川、メコン川、揚子江、黄河源流などが併流し、政治的理由から長く禁断の地となっていました。
著者である中村保氏は、1990年以来、30回以上にわたって現地を訪れ、多くの地理的な発見を重ね、人々の暮らしと歴史を明らかにしてきました。その「最後の辺境」には、いまなお未踏の6000メートル峰が270座以上存在していると言われています。
本書は、21年間にわたって敢行してきた、広大な未踏地域を含む踏査行の集大成です。知られざる未踏峰群、チベットの人々の暮らし、「西部大開発」で進行するチベットの発展と変貌を紹介し、「最後の辺境」を明らかにしました。
2008年、その偉業を称え、英国王立地理学協会は「Busk Medal 2008」を授与しています。
著者 中村 保(なかむら・たもつ)
1934年、東京都生まれ。77 歳。一橋大学卒。在学中は山岳部に所属し、先鋭登山を目指しましたが、卒業後は石川島重工㈱に入社し、パキスタン、メキシコ、ニュージーランド、香港などに二十余年駐在。
1990年から、「ヒマラヤの東」(雲南、四川、東チベットなど)に頻繁に赴き、堪能な語学力を駆使して調査を行ない、その成果を内外の山岳雑誌で発表してきました。特に海外で高い評価を受けています。
日本山岳会の名誉会員で、同会の英文機関誌の編集のほか、アルパインクラブ(イギリス)、アメリカ、ヒマラヤンクラブ、ポーランドの各山岳会の名誉会員、英国王立地理学会フェロー等を務め、国内外で旺盛な講演活動を行なっています。著書に、『ヒマラヤの東』、『深い浸食の国』、『チベットのアルプス』(山と溪谷社)、『DIE ALPEN TIBETS』(ドイツ出版社)などがあります。
■選考の経過
「梅棹忠夫・山と探検文学賞」の選考は、過去2年以内に出版された30冊を事務局で選定し、小山修三委員長のもと、2度の予備選考を進めました。
最終候補作品として『最後の辺境 チベットのアルプス』(中村保著、東京新聞出版局)、『未踏の南極ドームを探る 内陸雪原の13カ月』(上田豊著、成山堂書店)、『イエティ ヒマラヤ最後の謎゛雪男゛の真実』(根深誠著、山と溪谷社)、『梅棹忠夫 未知への限りない情熱』(藍野裕之、山と溪谷社)、『東日本大震災 津波詳細地図上下』(原口強他、古今書院)・『ふるさと石巻の記憶 空撮3・11その前・その後』(三陸河北新報社)のセットとして5冊にしぼられ、2月25日、山と溪谷社会議室で行なわれた最終選考によって、フィールドワークの重要性、地図の正確さなどの点から、『最後の辺境 チベットのアルプス』が第2回授賞作品に決定されました。